もう皆さんご存知であろう。
国民的人気者のくまモン。熊本県のPR観光大使として全国に広まった“ゆるキャラ”である。企画部の戦略は、現在のようにくまモンを前面に押し出そうとしたものでなかった。
九州新幹線開通を機に、熊本を知ってもらうキャンペーンのひとつとして「くまもとサプライズ」が企画され、熊本県天草市出身の小山薫堂氏を新幹線元年事業アドバイザーに迎えた。
この企画のアピールとして小山薫堂氏の発案で“くまもとサプライズのロゴ”を、友人であったアートディレクター・水野学(グッドデザインカンパニー)へ依頼する。その時、水野学氏が効率よくアピールするため、キャラクターの作成を考案し、自らデザインを手がけた。これがくまモンの誕生したきっかけである。
型破りなマーケティング戦略
今や、くまモンのグッズはたくさんあり、平成26年は少なくとも643億2000万円に達したと発表した。前年の1.4倍で調査開始以来、過去最大となった。ただ、熊本県はライセンス料を一切とっていない。
パッケージやキャッチコピー等が熊本県を応援するものであれば、無料で許可を出している。くまモンを商品やサービスに使いたい企業は、許可証1枚で使用することができる。これはくまモンで利益を得ようとするのではなく、くまモンを広めることで熊本県の認知度を上げればいいと企画部が思っているからだ。
ゆるキャラ会の神 ひこにゃんの殿様戦略 vs くまモン
ゆるキャラの元祖といえば、ひこにゃんだ。ひこにゃんは、くまモンと違いライセンス料を収めないといけない。著作権などライセンスを巡っては彦根市と原作者・業者の間で裁判も起こっており、最終的には和解している。
一方で、熊本県はデザイナーの水野学氏から、くまモンの著作権を買い取り無償で利用させている。どちらが良いというわけではないが、一番手となったひこにゃんと同じ戦略をとっていては、同じように認知してもらうのは難しい。市場を分析してライバルから市場を奪える方法を考える必要がある。
くまモン=織田信長? 楽市楽座を見習え!
熊本県は、ひこにゃんと違う戦略をとった。
それは先述したように、デザイナーの水野学氏から著作権を買い取り、ライセンスを無償で使わせたことだ。これは織田信長の楽市楽座を模範している。
楽市楽座とは、織田信長や豊臣秀吉などが行った政策である。
既存の独占販売権、非課税権、不入権などの特権を持つ商工業者(市座、問屋など)を排除して自由取引市場をつくり、座を解散させるものである。中世の経済的利益は座・問丸・株仲間によって独占され既得権化していたが、戦国大名はこれを排除して絶対的な領主権の確立を目指すとともに、税の減免を通して新興商工業者を育成し経済の活性化を図ったのである。
Wikipediaより
熊本県はライセンス料という目先の利益を排除する代わりに、熊本の認知度を上げて観光など興味を持ってくれる見込み客を増やしていった。水野学氏から著作権を買い取るという必要に応じた投資を熊本県は行った。
熊本県は観光名所はあるが、認知度が低く同じ九州なら福岡県や長崎県など行こうかとなってしまう。しかし、現在はくまモンによって観光客を増やした。2011年11月~2013年10月のくまモン利用商品の売上げおよび観光客増加による経済波及効果1,244億円に及んでいる。(資料元)
誰からも愛されるくまモン
今や、くまモンはゆるキャラのひとつではない。
2012年にはアメリカの名門新聞「ウォールストリート・ジャーナル」が一面で取り上げられ、2013年にはフランス、ドイツ、イギリスを訪れ海外企業とコラボレーションしている。
テディベアで有名なドイツのシュタイフ社や、フランスの高級クリスタルブランド「バカラ」や、ドイツの自動車メーカーBMWなど。アメリカのハーバード大学でもデビューしている。
世代別で、くまモン・ハローキティ・ミッキマウスの好感度を調べたグラフがある。
「キティ」「ミッキー」「くまモン」のキャラクターパワーをデータから比較する
ミッキーマウスやハローキティにも引けをとらず、くまモンの好感度は高い。年代や性別を問わないというところは強い。ミッキーマウスは世界的なキャラクターではあるが、自社のマーケティングによってアニメやディズニーランドなどエンターテイメントを生み出している。
ところが、くまモンは自社のマーケティングはほとんど行っていない。自社のマーケティングとしては、熊本県のPRとしての演出のみである。あとはメディアに取り上げられたり、企業の無償コラボである。
誰からも愛されるブランドを作ることは、会社認知度を上げるうえで必要なことだ。くまモンのように年齢や世代を問わず愛されるのは難しい。ただ、熊本県にとってターゲットがファミリーなど観光客であったから、ゆるキャラという選択なった。
皆さんがブランドを構築するときには、その目的とターゲットを踏まえた適切な戦術を選択する必要がある。その戦術を見極められる知識と決断力を持とう。